みんなザクに乗れ

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装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ」を見ました。本編はもう20年ほど前にテレビで放映されたもので、それ以来、本編の隙間を埋めるように、OVAがたまにリリースされます。

これほど寿命の長いロボットアニメは、あとはガンダムくらいでしょうか。リリースされる作品の数は、ガンダムのほうが多いわけですが、ボトムズは主人公がテレビ放映時からずっと変わらない、という点は、すごいと思います。

私が、このアニメが好きな理由は、(1)色恋沙汰がほぼ存在しない、(2)主人公専用のロボットが存在しない、の2点です。

(1)については、ロボットアニメでは多くの場合、パイロットやその他クルーたちのあいだで、色恋沙汰が発生、展開することが多いのですが、わたしはそこに、違和感を覚えます。戦争中に何をやってるのかと。軍隊ってのは、そうじゃないだろうと。軍隊に参加したことはないですが。

そこへいくと、このボトムズは、ほとんど色恋沙汰がありません。この「ペールゼン・ファイルズ」は全12話ですが、全編を通して、女性が登場するシーンは一度もなかったと思います。登場人物の9割方は、おっさんという徹底ぶり。さすがに主人公のキリコ・キュービィーはおっさんではありませんが、軍人、あるいは除隊後の元軍人、という立場で、転属先の部隊でいじめにあったり、拷問にあったり、上司から殺されそうになったり、死ぬかどうかを試されたり、謎の組織に追いかけられたり、次々と悲惨な目に遭います。そうそう、軍隊ってやっぱりこれだよと、思わずうなずいてしまう、安心できる展開です。

(2)については、ロボットアニメのフォーマットとして、主人公が専用の高性能な機体で活躍する、というのが一般的ですが、ボトムズにおいては、主人公はほとんどの場合、誰もが乗っている、ガンダムで言えばザクのような一般的な機体で戦います。壊れたら乗り捨てるし、町のジャンク屋でパーツを集めて組み上げる、という場面もあります。

機動戦士ガンダム」で、主人公との戦いに敗れた敵パイロットが「うぬぼれるなよ、お前の力で勝ったのではない。ガンダムの性能のおかげで勝ったのだ」と言うシーンがあります(余談ですが、このとき敵パイロットは、爆発する自機から脱出、ガンダムの股間にぶら下がっており、その上でこの負け惜しみともとれる言葉をはくので、客観的にはものすごくかっこわるいはずですが、なぜかものすごくかっこいいのです。このかっこよさはなんなんだろうか)。

主人公も、兵器の性能の差で勝ったにすぎないことを自覚しており、ここまで来ると、もう戦争ではなく、ある意味、男の戦いであるといえるでしょう。男の戦いであるなら、やはり基本はイコールコンディションであり、ボクシングで体重を制限するように、兵器の性能の差も無くしてこそ。

しかし、第一話で主人公の前に現れたロボットが、ガンダムでなく、ジムやボールだったら。たぶん、物語として成立しないし、そもそもプラモ屋さんが困るでしょう。やはり主人公専用の機体というのは、アニメには外せないのでしょうが、それを否定し、堂々と主人公が量産機に乗ってしまっているこの「ボトムズ」という作品は、非常に希有で魅力的だと思うわけです。