カラマーゾフの兄弟1巻

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)


ロシア文学というと、もっと難解で、重厚で、罪とか罰とか、そういう感じを勝手に想像してたが、とても面白い。テンポもよくて、ノリノリです。あ、ノリノリって表現、もう古いのかな。まあいいか。

特に、オヤジがいい。ノリノリというか、ノリノリを超えた超ノリノリで、神を冒涜し、酒をあおり、美女を息子と取り合い、負傷して、あっという間に一巻が終わる。

言葉は悪いが、典型的なクソオヤジというやつだ。ああクソオヤジ。なんという甘美な響きだろう。一般的に「オヤジ」という呼称には、幾分かの、いや、かなりの侮蔑が含まれる。たとえば、「オヤジ狩り」という言葉。オヤジは、狩られる側でしかないのだ。「オヤジギャグ」は必ず面白くないし、「オヤジ臭い」は最高峰の侮辱の言葉の一つだ。男は皆、あっという間にオヤジになるというのに、なんと悲しいことだろうか。

しかし、このオヤジに「クソ」という接頭語がつくと、とたんにとてつもないパワーを発揮する。「クソオヤジ」という呼称には「オヤジ狩り」や「オヤジギャグ」、「オヤジ臭い」という言葉がもつ悲しさがない。恥知らずで、したたかで、しぶとくて、煮ても焼いても切っても死なない、そんな強さがある。一種の畏敬の念さえ込められているようではないか。あたかも、マイナス×マイナスがプラスになるような。

わたしも、すでにオヤジと呼ばれる年齢だが、「クソオヤジ」になるのはかなり困難だということに、ようやく気づいた。だれもがクソオヤジになれるわけではないのだ。特に、カラマーゾフさんのような、筋金入りのクソオヤジには、なろうとしてもなれるものではない。

なんということだろう。クソオヤジになることさえできないなんて!