人使いの極意―乱世を生き抜いた知将の至言

“人使い”の極意―乱世を生き抜いた知将の至言 (新潮新書)

“人使い”の極意―乱世を生き抜いた知将の至言 (新潮新書)


タイトルと内容が、ちょっとかみ合っていないかも。「今日から実践! 算用武士道」とでもしたほうがいいかな。

多胡辰敬、藤堂高虎黒田官兵衛という、戦国時代の三人の武将が残した家訓や文書から、現代でも通用するものを選び、平易な現代語に訳すとともに、各武将の解説も載せています。

正直、多胡辰敬って人は知らなかったんですが、藤堂高虎黒田官兵衛は、いわゆる戦国の荒大名とは一味違う人たちですね。残した言葉も、他の大名たちとは違い、味わい深いものとなっています。

藤堂高虎は、七度も主人を替えたということで、特に豊臣から徳川への乗り換えっぷりがあんまりなので、どちらかというとずるがしこい人という印象がありますが、本人からすれば生き残りをかけているわけで、後世の人がそれをあれこれ文句いうのも勝手な話かもしれません。もともと粗暴で荒っぽかった高虎が、豊臣秀長、秀吉の家臣となってからは、算用や土木を身につけ、変わっていくところが面白い。

黒田官兵衛は、わたしは戦国時代で一番好きな人物の一人なんですが、その家訓も非常に新鮮でした。戦国時代っぽくないというか。金を節約し、使うときに使おう、とういような家訓があって、関ヶ原の戦いのとき、官兵衛はこれを実践します。九州で一旗揚げるため(そして恐らくは天下取りのため)に、蓄えた金をはき出し、兵をそろえます。今、私が想像してみると、このときの官兵衛はとても楽しかったんではないか、と。

九州で官兵衛は快進撃しますが、関ヶ原の戦いが一日で決着したため、その夢は終わります。で、家康に「徳川家のために九州征伐してたんだヨ!」とか言って、さっさと引っ込んでしまうのですが、このひっこみっぷりもいいですね。執着がない。失敗だと悟ったら、未練を残さず全力で引っ込む。見事です。

仁義礼智信を説く武士道は、なかなか普通の人には実践できないものですが、この本が説く算用武士道は、乱世を生き抜く知恵として、現代人にも参考にできるところが多々あるのではないでしょうか。