楊令伝

楊令伝 15 天穹の章

楊令伝 15 天穹の章


全一五巻。先ごろ読破しました。

同じく読破した友人と「仮に梁山泊に入山したら、どこを担当したいか」というテーマについて話しました。

実戦部隊だと調練がきついし、致死軍なんか絶対嫌だし、ということで「宋江の供をして旅する」ということで意見が一致しました。

でも、この部署(?)は一見楽そうだけど、特殊スキルが要求されるんだよね。虎を素手で殺せるとか、板斧使わせたら官軍の兵士の首がいくらでも飛んでいくとか、トークで敵の有望な人材をこちら側にひき抜けるとか、石積みを崩して官軍に大打撃を与えることができるとか、料理が得意とか。

……やっぱり無理そうだなこの部署。重装歩兵を志願します。


北方謙三という作家は、かなり好き嫌いがはっきりするようで、わたしの父親なんかは嫌いだそうです。わたしは好きなんですが、嫌いだ、という理由もなんとなくわかります。

いわゆる「男」というものを、恥ずかしげもなく前面に出しすぎる。くさいセリフをくさいまま、言わせてしまう。そういったところでしょうか。

北方的な「男の世界」に、憧れる若年者がいる。一方で、そういう世界がファンタジーでしかないことに気付きながらも、そこにたまには浸りたい中老年がいる。

しかしながら、北方的な「男の世界」は、現代日本においては、架空の物語においてさえ希少であり、北方という書き手は、好きな読み手にとっては、貴重だといえるでしょう。

北方の文体はとても特徴的で、形容を削ぎに削いで、ほとんど名詞と動詞だけで構成しているのですが、これも、男たちのくさすぎるセリフから、できるだけ臭味を抜く工夫なのではないか、と思いました。

本作において、わたしが最も好きな登場人物は、蕭珪材という人です。この人はもうあまりにくさいセリフを吐くのですが、北方が、読み手がなんとか耐えれるぐらいにまで臭味を抜いてくれているからこそ、の人物ではないでしょうか。